愛染明王とは「瑜祇経」に由来する明王です。 仏様の姿は例外がある事が多いですが、基本的な愛染明王の姿は一面六臂、忿怒相であり、獅子の冠、宝瓶の上に咲いた蓮の華の上に結跏趺坐で座り、身体は全て真紅です。 「瑜祇経」第五品に「衆星の光を射るが如し」と書かれているため、天に向かって弓を引く姿の仏像も各地にあります。 愛染明王は古くから、愛染の語感から藍染の職人、愛欲を否定しないところから遊女に信仰されたそうです。 日蓮系各派では愛染明王は煩悩即菩提、煩悩を捨てずして仏になる道があるとされます。 ただ「煩悩即菩提」の解釈は難しく、「法性を離れて外に 別に諸法有ること無きに由り 是の故に是の如く説く 煩悩即ち菩提なりと」とも言うので、煩悩をほっておいてよいという意味ではないと解釈します。
良縁を結んでくれる仏様ですが、明王なので武神でもあります。 有名どころでは、直江兼続の兜に愛の文字はこの愛染明王に由来します。
さて、この愛染明王。関東にも練馬の愛染院、板橋の光明山愛染院など祀るお寺があるのですが、やはり本場は関西と言うことか、愛染明王の巡拝は関西しか定められていません。

いただいた勝鬘院のご住職にブログに載せて良いかお尋ねして、よいそうなので載せます。
そこで3年かかりまして、西国愛染十七霊場を満願して満願証をいただきました。
令和第一号だそうですよ。
せっかくですので、十七霊場に関する日記を残そうと思います。
なお、御宝印や境内の中の写真撮影はしていません。アイキャッチの画像は東京国立博物館で自分で撮影しました。
第一番 | 荒陵山 勝鬘院 |
第二番 | 松泰山 東光寺 |
第三番 | 獨鈷山 鏑射寺 |
第四番 | 摩耶山 天上寺 |
第五番 | 再度山 大龍寺 |
第六番 | 上野山 須磨寺 正覚院 |
第七番 | 恵龍山 大聖寺 |
第八番 | 八幡山 東寺 |
第九番 | 北斗山 覚性律庵 |
第十番 | 増福院 |
第十一番 | 遍光山 愛染院願成寺 |
第十二番 | 天王山 木津寺久修園院 |
第十三番 | 勝宝山 西大寺 |
第十四番 | 生駒山 宝山寺 |
第十五番 | 槇尾山 施福寺 |
第十六番 | 福智院 |
第十七番 | 金剛三昧院 |
荒陵山 勝鬘院

和宗
多くの場合、最初に訪れる第一番の勝鬘院。四天王寺の一部であるようです。愛染霊場には珍しく公式Twitterアカウントがあります。
駅近くの平地なので、難易度的には低いです。
大阪府大阪市天王寺区夕陽丘町
松泰山 東光寺

高野山真言宗
愛染明王と不動明王が一体となって「厄神明王」という尊格となって祀られる、通称「門戸厄神」。厄神明王像は見れませんでしたが、人形供養など変わったものを見る事ができました。
兵庫県西宮市門戸西町
獨鈷山 鏑射寺

真言宗
こちらの先代のご住職、地元では「空海さんに迫る徳力」と呼ばれてるそうで、以前は地元の議席の方も相談に来られた程だそうです。
ここの愛染明王像は間近で見る事ができ、一人で長時間拝観させていただきました。

兵庫県神戸市北区道場町生野
摩耶山 天上寺

高野山真言宗
摩耶夫人とはシッタールダのお母さんマーヤー王妃の事ですが、キリスト教で言うマリア信仰と同じくお母さんも祀られる事があります。

天上寺とは天上世界を表しているらしく、ケーブルカーとロープウェイを乗り継いで登る高い位置にあるお寺です。天上を表しているだけあって、ここの庭は素晴らしいです。お寺なのに人工的な綺麗さです。

標高もかなり高く、まさに天上世界。下界を見下ろせます。
ロープウェイとケーブルカーを乗り継ぐという高さで、石段を登るのも辛い空気になります。美しさに似合わず難易度は高に入ると思います。

兵庫県神戸市灘区摩耶山町
再度山 大龍寺

東寺真言宗
白状すると、日程の都合でタクシー移動してしまいました。
運転手さんによると「観光でここに行く人は珍しい」との事です。単に場所が行きにくい、というだけなので難易度は中。
愛染明王像は間近で拝観させていただけました。
兵庫県神戸市中央区再度山
上野山 須磨寺 正覚院

真言宗須磨寺派
源義経で有名な、一ノ谷の戦いで源氏の本陣となった寺院で、その中の一つの堂宇で愛染明王が祀られています。

境内には一ノ谷の戦いの後、義経が首実検をする時に腰かけたと言われる松があります。

織田信長が好んで舞った事で有名な幸若舞の「敦盛」の現地で、一六歳で戦死した平敦盛の首塚があります。
ちなみに「人生五十年」というのは、化天という下位の天上世界では、そこの一晩が人間界の50年にあたる。人間の五十年など夢幻しのようだ、という意味で、寿命が50歳という意味ではないそうですよ。
兵庫県神戸市須磨区須磨寺町
恵龍山 大聖寺

真言宗大覚寺派
ここは戦時中、吉川英治が小説「宮本武蔵」を書き始めた場所だそうです。当時は小説も軍部の統制があるので、日本人的な強い武蔵のイメージを求められたのだそうですよ。

境内には武蔵とお通さんの銅像があります。

こちらは「宮本武蔵」の最初の方でたけぞうが吊るされた杉の木のモデルとなるそうです。
ご住職が気の良い方で、鐘を突かせてもらえました。よい思い出になりました。
岡山県美作市作東町大聖寺
八幡山 東寺

東寺真言宗
世界遺産の東寺です。 修学旅行の定番なので今更ですが、やはり観光客が多く、御朱印も並びました。 立体曼荼羅は訪れる度に毎回見ています。
京都府京都市南区九条町
北斗山 覚性律庵

天台宗
比叡山のすぐ近くにある天台宗のお寺で、本堂は南北朝時代の建立だそうです。
とても不思議な造作でした。 手水舎には不動明王の像が水掛不動として立っています。 愛染堂は中が見れるんですが、やはり覗く穴がせまく、残念ながらよく見えませんでした。

滋賀県大津市仰木
増福院

高野山真言宗
漫画の「センゴク権兵衛」で権兵衛が謹慎してたのがこの増福院です。中までは入れないので外からの参拝となりました。
宿坊になっているので、泊まりで来ると間近で見えたのでしょうか。
和歌山県伊都郡高野町高野山
遍光山 愛染院願成寺

真言宗豊山派
忍者の里こと、三重県伊賀市にある願成寺。伊賀は松尾芭蕉の出生地ですが、芭蕉の生家の近くでもあるので、芭蕉の塚もここにあります。
ここの愛染明王は普段見る事ができませんが、開帳した時の写真が飾ってあります。

こちらがその松尾芭蕉の出生地の碑。松尾芭蕉の隠密説の根拠ですね。
電車で着きさえすれば歩けるので難易度は低いです。時間があれば忍者資料館を見るのも楽しいですよ。
三重県伊賀市農人町
天王山 木津寺久修園院

真言律宗
新大阪からはけっこう遠いのですが、電車で来ましたところ、

なんと本尊不在。こんな所にも合併の波が……。
大阪府枚方市楠葉中之芝
勝宝山 西大寺

真言律宗
盛時は東大寺に対する西の西大寺として大きな寺領を誇ったそうです。愛染院は奥にあり、愛染明王像は厨子の中なので間近で見る事はできません。
ここ西大寺は神仏習合時代、天照大神の御正体とされる鏡と大日如来の曼荼羅が表裏一体になった不思議な寺宝があるそうですよ。

久修園院の御朱印も無事もらえました。
奈良県奈良市西大寺芝町
生駒山 宝山寺

真言律宗
生駒山のケーブルカーで登ると、山中とは思えない賑やかな参道があります。
年始に行ったので、おそらく気温は1度あるか無いかくらいでした。

ここは恐ろしく広く荘厳で、見るものが無数にあります。愛染明王は近くで見る事ができます。

ケーブルカーなど観光化されてるので比較的楽ですが、難易度は愛染霊場では中くらいと思います。
奈良県生駒市門前町
槇尾山 施福寺

天台宗
ここの愛染堂は、空海が得度して剃髪したとされる場所にあるそうです。
和泉府中駅からバスで槇尾山へ行き、そこから山門まで1時間ほど歩いたのですが、山門をくぐってから本堂まで1キロの石段を30分かけて登るという鬼難易度。ケーブルカーはおろか、自販機の一つもないストイックさです。

一緒に登った高校生と仲良くなり、バス代を出してあげて一緒に帰りました。
高野山ももちろん辛いは辛いのですが、観光化の結果ケーブルカーが通ってたりします。その点、施福寺にはそんな軟弱なものは無いので、総合すると愛染霊場で最大の難易度を誇ります。
大阪府和泉市槙尾山
福智院

高野山真言宗
なんだかコミカルな鬼がお迎えしてくれます。 ここは高野山では一番最初に訪れたお寺です。高野山は中をバスが走っていて、バス停近くだったのですぐに見つける事ができました。

ここも宿坊がメインらしいのですが、お願いすると愛染明王像の前まで入らせてもらえました。
高野山は本気で参道を登るとハードコースですが、ケーブルカーで来れます。しかしそもそもが行きにくい場所にあるので、加味すると難易度は上レベルかと思います。
和歌山県伊都郡高野町高野山
金剛三昧院

高野山真言宗
金剛三昧院は、源頼朝を弔うため、北条政子が創建したそうです。 後に源実朝の遺骨が納められたとのことです。 現在はさほど広くないですが、ここの庭園は非常に見るものが多いです。 愛染明王像は見れるのですが、暗いお堂の奥にあり、なかなか良く見る事ができませんでした。
この多宝塔は北条政子が頼朝、実朝を供養するために建てたもので、高野山に現存する最古の木造建築物だそうです。 国宝、および世界遺産に指定されています。

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の終着点近くでもあり、西国愛染霊場の最後にふさわしいのではないでしょうか。

和歌山県伊都郡高野町高野山
以上で3年かけた愛染霊場めぐりの旅が終わりました。
愛染明王は、女性が祈ると可愛らしく愛敬のある子供を授けてくれるそうですよ。
男性の僕がやって効果あるかは知りませんが、17尊の愛染明王様全てに子供の幸福にする請願をして来ました。
よい旅でした。